※この記事はネタバレを含む。途中からは追加ストーリーのネタバレも含む。

ゼノブレイドシリーズというのはJRPGの中でもコアな人気のシリーズだけど、その中でも2015年の「ゼノブレイドクロス」というのは特殊なゲームだった。今でこそ「ゼノブレイド」「2」「3」と出た中で、「クロス」は違う立ち位置にある作品というのは理解されているけど、発売当時は「ゼノブレイド」が出たあと初めてのシリーズ続編として期待されていた中で、出てきたのはハッキリ言ってしまうと前作の期待を裏切るような作品だった。名作として評価された前作(ゼノブレイド)とまるで異なるSFを基調とした世界観や音楽、ムービーは多いが淡白な演出で退屈な展開、単調なクエスト攻略、そして多くの謎を残したまま「This story is never ending」で投げだす結末など、前作「ゼノブレイド」の良さをことごとく無くしたような作品だった。しかも悪いことに、シリーズの欠点として挙げられることもある細切れのデモシーンを順番に見ていくメインストーリー進行は継承してしまっており、特に自由度の低い序盤では顕著になる。2015年の発売当初、少なくとも日本国内では賛否両論...というか"否"の方が多かったと記憶している。

しかし、ゼノブレイドクロスは単なる名作になれなかった作品というわけではない。前作と比較して求められていた物が色々と足りない代わりに、広大なオープンワールドをロボットに乗って自由に駆け巡れるという唯一無二のJRPGとして異様に作り込まれている。JRPGらしくない特徴的なボーカルを基調としたBGMも、派手なロボットバトルや米国を母体とした世界観とはマッチしている。他のゲームや、「ゼノブレイド」シリーズに無い魅力を持っている作品でもあった。とにかく、一言で言うと「変なゲーム」であり、名作揃いとされる「ゼノブレイド」シリーズの中でも異色の作品、「ゼノ」らしくない作品だった。

それが10年後、2025年に「Definitive Edition(DE)」としてNintendo Switchでリマスターされた。基本的なゲームの内容としてはそのままだけど、グラフィックや演出の改善、UIやTipsなど細かい所に多数の改善が入っており、決定版(Definitive Edition)と言える内容になっている。特にUIは全部作り直されており、全体的にフォントが大きく見やすくなった。クエスト関連のナビゲーションも強化され、ドール入手のための素材が見つからなくて困ったりすることも無くなり、パーティメンバー追加条件なども分かりやすくなった。原作ではパーティメンバーの入れ替えが面倒で「主人公・エルマ・リンで固定」みたいな事になりがちだったのが、パーティメンバーの入れ替えはいつでも自由にできるようになったので色々なメンバーを仲間に加えやすくなった。原作で有料追加DLCだった4人の加入クエストもDEには最初から含まれているし、さらにDEで初登場の新キャラクターもゲーム中盤から複数人登場するので、最終的にはかなりにぎやかになる。ちなみに既存キャラクターでも追加のボイスが少しあるので再収録も行われているみたいだけど、全部撮り直されているのかどうかはよく分からなかった。私の聞き間違いでなければ、追加ラスボスの撃破後には主人公の追加ボイスもあったような...汎用ボイスしか喋らない主人公がラスボス戦にだけ専用セリフ用意されてるゲームって他にもあったよな、セブンスドラゴン3(2015)だっけ?

ゼノブレイドクロスというのはもともと2015年のWii U版の時点でもハードウェアの限界に挑戦したような作品だった。それがDEになってグラフィックが劇的に向上したりしたわけではなく10年前を思わせるようなクオリティのグラフィックが残っていたりはするけど、それでも2025年に十分通用するビジュアルではある。ロードが間に合っていなかったり、カメラ回転時にフレーム生成の残像らしきものが目立ったりして、Switchでもあまり余裕は無さそうに見える。それでも、おそらくWii Uでは無理だったであろう超高速飛行をする戦闘機型ドールの追加はSwitchのスペックを活かした新要素だと感じた。

他にもバトルの追加要素としてクイックリキャストの存在が大きい。これによって、特に最序盤のバトルがやることが少なくて退屈という本シリーズが持つ欠点をカバーし、最初からコンボやソウルボイスを戦略的に発動できる。中盤からはオーバークロックギアを有効に使うためにもクイックリキャストは有効で、終盤ドールの戦闘が多くなる中でもインナーでしか使えないクイックリキャストの存在はうまく差別化して戦略の幅を広げている。クイックリキャストのおかげでゼノブレイドクロスの戦闘は一段と面白くなっている。一方ドールでの戦闘には目立った追加要素は無く、もともと原作の時点から大味でエンドコンテンツ寄りだったドールの戦闘と、序盤から戦略性の増したインナーとの戦闘で差が開いてしまっている。追加ドールは特徴的な性能を持っていて面白いが、あくまでドールが1種類追加されただけであり、ドールでの戦闘に深みを与えるものではない。なおドールでのクイックリキャストはストーリーをクリアするまでは解禁されない。

以下、追加ストーリーについて述べる。


12章でラスボスを倒してスタッフロール後にラオが映るシーンまでは10年前のオリジナル版のストーリーと全く同じだけど、問題の「This story is never ending」が無くなって短い繋ぎの会話シーンが挟まってから、13章を受注可能となって続くようになっている。13章では追加キャラクター、追加ドール、追加キズナクエスト、最後には追加マップの浮遊大陸も登場し、結構なボリュームがある。「ゼノブレイドDE」の追加ストーリー「つながる未来」や、「2」「3」の追加DLC「黄金の国イーラ」「新たなる未来」のような独立した作品とは異なり、13章は完全にゲームとして連続している。本編のセーブデータはそのままで、キャラクターやアイテムなどもすべて12章クリア時の状態を普通に引き継いで始められる。一部制限はあるが13章進行中も12章以前のサブクエストなどを進められる。一応、12章でスタッフロールは流れるので一区切りではあり、イメージとしては12章が表のラスボスで13章が裏のラスボスのような感じ。本編12章をクリアせずに追加ストーリーだけプレイするようなことはできない。長々と述べたけど単純に言えば、原作は12章完結だったのがDEでひとつ増えて13章になったというだけ。なお実際には13章は大きく3つに分かれており、ボリュームとしては実質15章ぐらいまであるといえる。

13章の演出は「ゼノブレイド3」よりも後に作られたノウハウを感じさせるような作りになっていて、12章までよりもクオリティの高さを感じられる。派手なムービーもあるし「ゼノブレイド3」でたまに用いられたような美麗なイラストによる表現もあって、手が込んでいる。13章で加入する新キャラクターのアルは、シリーズの追加ストーリーのキャラクターでよく見られる手法である特徴的な口ぐせや分かりやすい性格付けによって短期間で印象が残るようになっている。もともと世界を救った英雄という設定を持っていて、最強のドールを唯一使えるというステータスもあって、13章の実質的な主人公となっている。ゼノブレイドクロスは12章までの原作の時点で「主人公(アバター)の影が薄い」「エルマが主人公」と揶揄されることが多く、13章でさらに主人公みたいなキャラクターのアルが追加されてしまい、しかもエルマとアルでなんか良い感じの会話するようなシーンもあって、本来の主人公であるアバターは立場がどんどん無くなっていくという欠点はある。しかしアバターの主人公にもちゃんと見せ場も用意されているし、そもそもラスボス戦でアルは離脱する。それまで主人公はアバターとして性格や意志の描写は少なかったのが突然強い意志があるかのような言動をするので違和感はあるけど、ちゃんとアバターが主人公として決着を付けるストーリーになっているのは良かったと思う。よく考えてみればアバターも戦闘中はよく喋るので、以前からちょっと戦闘狂ぎみな描写があるといえばあるんだよね。

淡白であった12章までのストーリーと違って13章は特に重要な話が詰め込まれていて、12章最後で原作の"オチ"であったセントラルライフが故障していた話とかラオのもとに黒服が現れるシーンの謎とかはちゃんと全部回収されるし、地球を襲撃した2勢力のグロウスとゴーストとか、白鯨を命がけで守った英雄の謎みたいな、オープニングから意味深に語られつつも何も明かされることが無かった話とかも開示されていく。10年前に広げっぱなしだった風呂敷を畳みつつ、さらに話のスケールを大きく広げながらも、ちゃんと惑星ミラの物語を完結させている。 本編ストーリーよりも遥か昔から遠く離れた星で闘争が続いていて...みたいな、「ゼノギアス」からの定番のような壮大な過去も明かされたりする。「ゼノブレイド」シリーズとの繋がりをほのめかすような設定も明かされ、少しだけシリーズのキャラクターが映るシーンも実際に存在する。今の世界を捨てて新しい世界に行くというメインストーリーは「ゼノブレイド3」の追加DLC「新たなる未来」と対になっているのを感じさせるし、オリジナルアレスのコアの特徴的な配置もそこで見覚えがある配置になっている1。この13章メインストーリーの存在によって、ゼノブレイドクロスDEは「ゼノブレイドクロス」というタイトルを冠するにふさわしいシリーズ作品として完成したと言って良いと思う。

一方で、ゼノシリーズでも異色の作品だった12章完結の原作に、ゼノシリーズらしい13章を後付けしたことによる弊害も出ている。原作は「未開の惑星ミラで生きていく」ことを主題として色々頑張っていく物語だが、13章は急にミラを捨てて新たな世界に旅立つ話になるので喪失感がある。「今の世界を捨てて新しい世界に旅立とう」っていうのは「新たなる未来」では悪役がやっていた事だしね。設定的にも惑星ミラに漂着して数ヶ月で、ようやく手に入れた安住の地をすぐに捨てることになるのは、状況からして仕方ないにしても唐突な展開に感じる。1章から13章までぶっ続けでプレイすると、特に原作をプレイしたことが無くDEから始めた場合、この辺の違和感が大きいのではないかと思う。13章は開始条件もゆるいので12章クリア後すぐに13章を進めてしまったけど、すぐ13章を始めるのではなく、12章クリアで解禁されるクエストを消化したりドールを強化したり、またはコントローラーを置いて他のゲームをしたりして、すこし時間を置いてから13章を始めるのが適切な遊び方だったなと思った。

また視点を変えて、2015年の原作の時点で12章で止まっていて惑星ミラの物語は何もかも謎に包まれたまま、10年間の時が経ってDEが発売されたと考える。13章ではゲーム内で2年前の地球消滅の話や数ヶ月前の白鯨漂着時の英雄の活躍といった過去の話が回収されつつ、現実世界では10年前の過去である惑星ミラの物語にDEで決着が付くというのは、ゲーム内の設定上の時間経過と現実世界の時の流れが近しくなって妙な没入感もある。まるで、NLAの人たちが10年ほど惑星ミラで過ごした後の話が13章であるかのような錯覚がある。そう思うと、10年経って惑星ミラの物語が完結して新しい世界に旅立てるのは喪失感だけでなく達成感や開放感が大きく感じられ、評価が変わってくると感じる。

追加マップの浮遊大陸は、惑星ミラの既存5大陸に並ぶ6つ目の大陸と言うよりかは、原作には無かったラストダンジョン的な立ち位置になっている。ドールフライトカスタムを駆使して立体的な探索を求められる点はこのゲームの集大成という感じがするし、離ればなれになってしまったパーティメンバーを集めながら進むという点も昔からのJRPGのラストダンジョンでよくある展開で「ゼノブレイドクロス」に足りていなかった特徴でもある。 ただし、この浮遊大陸に来た時点で既存のマップに戻ることはできず、ショップなどはあるものの素材探索やサイドクエスト進行が大きく制限された状態でラスボスを倒すしか無いというのは、本作が持つ魅力を損なってしまっていると感じた。浮遊大陸は結構な広さがあるけど、探索できるのは13章のいちばん最後になってからで、ここに来た時点でメインクエストはラスボスを倒すことしか指し示さなくなる。桁外れに強大なオーバードなどもおらず、他の目標も乏しい。ラスボスは結構強く、また実質ドールでの戦闘を強要されるので、インナーキャラクターの強化やスキルカスタマイズよりも大金を払って強いドールやウェポンを買い揃えるのが重要という大味なゲームになってしまっている問題も抱えている。これも5大陸完結の原作に後付けでマップを追加した弊害のひとつだと思うし、そういう意味でも先述の「13章突入前にサブイベント消化やドール強化を進めたほうが良い(浮遊大陸に到達するとイベントや強化の幅が狭くなるので)」というのは理にかなっている。

ゼノブレイドクロスDEは独自の魅力と多数の欠点を持つ変なゲームだった原作を、オリジナルの特徴はできるだけそのままに、欠点の多くを解消し、追加要素によってゼノブレイドシリーズらしい要素を取り込んだ。もちろんまだ変な所が残っていたり、後付けではカバーしきれていない問題点も色々あるけど。原作の時点でほとんど完成していた「ゼノブレイドDE」と異なり、色々と伸び代の多い作品だった「ゼノブレイドクロス」をちゃんと改善した本作は、まさに決定版(Definitive Edition)を名乗るにふさわしい作品になったと思う。


  1. オリジナルアレスのコアのデザインはゼノブレイド3が初出ではなく、2015年発売のオリジナル版ゼノブレイドクロスの設定資料集にすでに存在する。