
『ぽこ あ ポケモン』(ぽこポケ)が発表されて、予約しようとした時「スピンオフタイトルで 約9,000円 は高いな」と正直に思った。9,000円というのはポケモンシリーズ内でも『ポケモンレジェンズZ-A』よりも高い、強気の価格。もしかしたらポケモンのゲームソフト(通常版)の中では最高金額なんじゃないか。自分は普段新作ゲームソフトの金額を気にすることはあまり無いけど、さすがに引っかかる所がある値段だった。
でも、やってみてわかったのは、ぽこポケは単なるポケモンのスピンオフではなく、ポケモンの新しいメインを張れる超ビッグタイトルであり、シリース最高金額の価格帯にふさわしい素晴らしい内容だった。
ぽこポケは「スローライフ・サンドボックス」というジャンル。簡単に言ってしまえば『どうぶつの森』と『Minecraft』のキャラクターをポケモンにしたゲームなんだけど、単なるジャンルの模倣ではなく様々な要素を丁寧に再構築しているおかげで、とても一言では言い表せない魅力的なゲームになっている。こういう既存の要素を噛み砕いて新しいゲームを作るタイプの企画は任天堂の開発チームが得意としている印象だけど、本作ぽこポケはポケモン本編を開発する株式会社ポケモン・ゲームフリークと、過去に『ドラゴンクエストビルダーズ2』を開発したコーエーテクモゲームスのオメガフォースによる共同開発になっている。
数百種類のポケモンが、誰も脇役にならない

まずスローライフゲームとして見ると、ポケモン1匹1匹が住人として登場するけど、みんなポケモンらしい個性を持っている。たとえばヒトカゲは暖かいところが好きで、焚火などに火をつける能力を持っている。好きな食べ物とか、近くに置いてほしい家具とかの設定が全部あって、それらがポケモンの「住み心地」というパラメータに影響するという形で、ポケモンの個性をデジタルに表現している。それぞれのポケモンによって好みが違うので、ポケモンの住処をデザインする楽しみが生まれている。 しかし枷になるほどの設定ではなくて、無理に好きな家具だけで揃えたりしなくてもポケモンの住み心地を上げる方法は色々ある。ポケモンの好みの設定を無視して、自分の好きなようにレイアウトを配置しても問題なくゲームを進められる。このようにサンドボックスゲームが得意で自由にクラフトしたいような人を阻害するようなこともなく、うまくバランスが取れている。
ポケモンと出会うには生息地を作る必要がある。生息地は様々な種類があるけど、最も基本的な形は草を4つ生やした「草むら」で、まずは草を4つ生やす所から始まる。そもそも(初代)ポケモンは四角形の草むらからランダムエンカウントするものなので、Minecraft的なボクセル状に配置された草とデザインの親和性が高い。草むらが最もベーシックな生息地だけど、他にも水辺だったら水ポケモンが出るとか、サンドバッグを置くと格闘ポケモンが出るみたいな感じになっていて、「次はどんなポケモンが出るんだろう」という楽しみがあるし、さまざまな住処を作っていくのがポケモンの原始的な体験であるコレクション要素に結びついている。実際、本作には「ポケモン図鑑」に加えて「生息地図鑑」がある。
そして、出会ったすべてのポケモンはフィールドに出て、いわゆる「住民」として活動する。「ポケモンをボックスに預ける」という概念が無く、すべてのポケモンが出会ってからずっと活動するようになる。ポケモン本編でいえば6匹パーティしか使えず、『どうぶつの森』でも住民は15人程度が上限になっているけど、ぽこポケは数百匹のポケモンが暮らす街が作れる。ソフトウェアの制約上、同時に描画されるのが20匹程度に制限されるのが大変惜しいところだけど、この描画されるポケモンはランダムに決まって毎日再抽選されるので、 誰も脇役になることがない のが特徴になっている。たくさんのポケモンを集めた街を作ると毎日違うポケモンが来るし、描画されていないポケモンも「あまいミツ」を使えばすぐに呼べるので、お気に入りのポケモンとずっと過ごすことも難しくない。たくさんの種類がいるポケモン全員を、ゲームの上でちゃんと活躍させることに成功している。ゲームに登場するすべてのキャラクターを活躍させることって、他のポケモンゲームではなかなかできていない事だし、『どうぶつの森』だって数百人いる住人のうちたった15人程度としか交流できない。ぽこポケは違って、誰も脇役にならない。ぽこポケは、スローライフゲームをポケモンと組み合わせることで、今までに無い新しい魅力的なゲームを構築することに成功している。
本当に何を作っても良いサンドボックス

次にサンドボックスゲームとして見てみる。『Minecraft』と同様にボクセル表現されたフィールドを自由に組み替えて建築したりクラフトができる。圧倒的な広さを持つ『Minecraft』と比べると、『ぽこポケ』のフィールドは一定の広さを持つ複数のエリアに区切られていてコンパクトで、かつメインストーリーで訪れるマップはすべて固定マップになっている。コンパクトといっても結構な広さがあるので探索する楽しさは十分にあるし、固定マップであるおかげでストーリー進行と能力解放によって徐々にマップが解放されるようになっていて、誘導が効いている。このおかげで、『Minecraft』など多くのサンドボックスゲームと違って「次に何をしたらいいか分からない」ということが起こりにくくなっているし、メインストーリーを進める動機が強くなっている。
サンドボックスなのでクラフトと建築がメインのやることになり、ポケモンの住む街を作っていくことになるので建物を作る必要があるけど、ここにも様々な配慮がある。 最初は世界が荒廃していて廃墟だらけになっているけど、この廃墟の壁や屋根を少し直すだけでちゃんとした家を作れるようになっている。廃墟と同じ素材の壁や床ブロックを探すモチベーションになるし、面倒なら違う種類のブロックで適当に埋めてしまっても何も問題は無い。また「建築キット」によって自分でブロックを積み上げなくても建物を作れる。これも2種類あって、ひとつは通常のブロックを積み上げて作られた家で、建築後も勝手に壊して作り変えたり出来る。もうひとつはブロックを壊せない固定の建物で、中に入る時に短いロードを挟んでしまうけど、専用のカメラアングルで内装が見やすい。そしてもちろん、建築キットなどを作らなくても『Minecraft』と同様に自分でゼロから建物を建てることもできる。ガタガタした地表をきれいに整地して、その上に自分の好きなようにブロックを積み上げて自由な建築をすることができる。作ろうと思えばとても複雑な建物も作れるし、木の柵で囲っただけの簡易的な住処で済ませることもできる。サンドボックスに慣れていて徹底的にこだわって建築したい人も、ただポケモンが好きなだけで建築に興味が無いからさっさと終わらせてポケモンを住まわせたい人も、どちらも受け入れられる懐の広さがある。
先述の通りポケモンの住処を作るのがメインになるけど、ポケモンってそもそも色々なところに住んでいるものなので、人間が住めるようなきれいな住居を建てることだけに縛られなくてもいいというのが、自由度を上げつつ難易度も下げている。草を生やしただけの草むらも立派なポケモンの住処だし、最初からある廃墟を修復しないままポケモンを住ませても良い。自然物でも人工物でもポケモンはどっちでも馴染む。ぽこポケにもマグマがあって、通り抜けできないので邪魔だけど、炎ポケモンのためにマグマを活かしても良いし、ブロックで埋めてしまって炎ポケモンは別のすみかに引っ越しさせても良い。ベトベターやダストダスのような汚いところを好むポケモンだっているので、そこにはゴミが散らばっていても良い。サンドボックスって本来なにを作っても良い物ではあるけど、そこにポケモンの多様性がきれいにハマっている。人間が住めるようなきれいに整った街を作るだけが正解ではなくて、ポケモンの多様性がすべてを受け入れてくれるおかげでどんなヘンテコな住処でも良くて、自由な建築のハードルを大きく下げている。何でも作れるけど、本当に何を作っても良く、そして誘導も効いている。これがサンドボックスとしてのレベルが高い点になる。
ポケモンのアタリマエを見直した、新たな挑戦
ぽこポケには、ポケモンの要素をベースにスローライフとサンドボックスを中心に様々な要素が詰め込まれているけど、一方で他のポケモン作品にあるような要素がいくつも無く、丁寧な取捨選択が行われている。
最大の特徴は、ポケモンなのに「バトル」が無い。これによって能力値や覚える技の性能差が無くなり、弱いポケモン強いポケモンの区別が無く、先述の「誰も脇役になることがない」事に繋がっている。バトルが無いから 「タイプ相性」も無い ので シリーズ伝統である18x18行列の巨大タイプ相性表を暗記する必要も一切ない。けど、「タイプ」の概念自体はポケモン図鑑のフレーバーテキストとして残っていて、同じタイプのポケモンは同じような住処を好んだり、「得意なこと」が同じな事が多いといった大まかな特徴はある。ポケモンの大きな特徴である「タイプ」は尊重しつつ、必要無い要素は大胆に削っている。
あとは ポケモンが進化しない のも大きな特徴になっている。これによって、序盤のかわいいポケモンがゲームの途中から進化して終盤からエンドコンテンツに掛けて出番が無くなるような事が無い。「進化」はしないけど「進化系」の概念は残っていて、同じ進化系のポケモンは同じ住処から出現したりする。進化後のポケモンのほうが作るのが難しい住処から出現したり、進化後のポケモンのほうが出現しづらくレアだけど、進化前のポケモンと大きな戦力差があるようなことは無く、終盤になって進化後のポケモンを見つけたからと言って進化前のポケモンも今まで通り活躍できる。進化前のポケモンのほうが口調が幼い感じだったりといった、優劣に関わらない個性もある。

特に、リザード・カメール・フシギソウのような、影が薄くなりがちな 中間進化ポケモンがちゃんと活躍する のは革新的だと思っている。かわいい進化前やかっこいい最終進化と違って、中間進化には全体的に個性が薄くなりがちだったし、本編ではすぐにレベルアップして最終進化してしまうので活躍する期間もわずか。すぐにいなくなってしまう中間進化の存在意義は正直ずっと疑問で、個人的には「中間進化という概念はいつか無くなってしまうのではないか?」と思っていたほどだった。 それがぽこポケでは、中間進化にもちゃんと個性が与えられている。生息地や得意なことが共通だったりして、同じ種族という関連性を持たせつつ、進化系のほうが出現しにくいという格の違いもありつつ、仲間になった後のステータスとかに優劣は無いので中間進化ポケモンも最後まで普通に活躍できる。
たとえばポケダンのジュプトルみたいに印象的な活躍をする中間進化ポケモンもいたけど、それは進化の文脈が廃されていて、キモリやジュカインではない理由は(少なくとも表立っては)与えられていなかったと思う。 ぽこポケは、進化系は似たすみかに居るとか好きなものが似ているとかで、進化の文脈を保ちつつ、それでいて中間進化も含めた個々が存在意義を尊重されている。今までポケモンがなかなか魅力を引き出せなかった中間進化に、ぽこポケでは光が当たっている。
あと、ぽこポケには トレーナーが登場しない 。近年の作品のようにポケモンそっちのけでトレーナーばかりに焦点が当たっているようなことはなく、完全にポケモンが主役として物語が繰り広げられる。 舞台設定はもの悲しいポストアポカリプスものだけど、詳細はフレーバーテキストを通して断片的に語られるのみで、ポケモンたちが繰り広げるメインストーリーは人間との再会を待ちつつも自由気ままな暮らしが描かれる。人間や世界に何があったのかは、プレイヤーによる探索と想像に任せるスタイルを取っている。手法としてはポケモンには珍しくやや大人向けだけど、設定自体は分かりやすいものだし、メインストーリーはあくまでポケモンとの暮らしを作っていくという単純な物であり、目的を見失うようなこともない。ストーリーは「ポケモンのスローライフ・サンドボックス」という要素を邪魔することなく、引き立て役としてちょうどいいポジションに収まっている。
このように、ポケモンというIPが本来持っている要素が丁寧に取捨選択されていて、それがゲーム性やキャラクターの魅力に繋がっている。いままでポケモンが当たり前にやっていたことを見直して、ゲームとして再構築されている。
スローライフ・サンドボックスとしての要素をポケモンとうまく組み合わせることでゲームとしての仕組みのクオリティを上げつつ、ポケモンの新しい魅力を引き出すことに成功した『ぽこポケ』は、紛れもなくポケモンの新たな挑戦であり、今までにない究極のポケモンと言ってもいいレベルの高い完成度になっている。
エンドゲームには問題が残っているが、それを支えるだけの基盤はある

ここまで述べたようにぽこポケは素晴らしいゲームだけど、完璧ではない。特にエンドコンテンツに課題はある。 ポケモンとの会話のパターンというか起きることが少なく、『どうぶつの森』のように毎日コミュニケーションだけをし続けて遊び続けられるほどの深みは無い。ポケモンはたまに感謝を述べて石や木の枝を渡してくれたりして、かわいいけど、コミュニケーションのパターンに乏しいのは否めない。ポケモン同士で遊んだり、家具とインタラクションしたりするのは見ていて楽しいけど、割と底が見えてしまう。
先に述べた通りマップに描画されるポケモンは最大20匹程度に制限されるのも、やり込むほど問題になる。ストーリークリアまでなら各マップほとんどすべてのポケモンが常時表示されるけど、ポケモン図鑑が完成に近づいてくるとひとつのマップに100匹近くのポケモンが住むことになり、たくさんのポケモンを集めたのになかなか登場しないという事態になってしまう。広いマップを活かして各所に住処を作るとポケモンの可視化もまばらになってしまい、ゴーストタウンのようになってしまう事もある。
舞台となるマップは建築や探索をするのに十分な広さはあるけど、限りがあるのでエンドコンテンツとして無限に近い探索を楽しめるほどの広さは無い。「ゆめしま」は一定のランダム要素はあるけど構造は代わり映えがせず、探索し続ける楽しさというよりも素材収集の義務感で訪れるという印象のほうが強い。また、ポケモン図鑑を完成させるには「ゆめしま」に通ってランダム出現のポケモンを狙う必要があるのも単調さを増してしまっている。
建築関連ではマスクパラメータがいくつか存在し、1マップ内に設置できる発電機や照明器具などに上限数がある。その確認はおろかゲーム中に説明されることもない。なので、大規模な建築のために大量に設備を配置しようとするときは注意しないといけない。各種上限は十分大きいのでストーリー攻略段階で気になることはないけど、エンドゲームとして自由な建築をずっと楽しもうとすると突然壁にぶつかってしまう。
追加される期間限定イベントも単調なものが多い。「ゆめしま」で特定のアイテムを集めるという内容で、メインストーリーで行われていた多彩な探索や発見に満ちた冒険は期間限定イベントには無い。進行度を問わず時間も掛けずにイベントに参加できるのは良いところだけど、今のところアップデートやイベントがエンドコンテンツとしてゲームを支えるには心細い。
でもゲームとしての基礎がちゃんとしていて、サンドボックスが本来持つ無限のクリエイティビティ要素はちゃんとあって長く遊べるようになっているので、上記のようなことは些細な問題として片づけることもできる。ただストーリー本編の魅力に満ち溢れた強力な導線誘導に比べると、エンドゲームが殺風景に映ってしまうのは否めない。 ポケモン図鑑、生息地図鑑、そして膨大な量のコレクションアイテムというように段階別に複数のコレクション要素があり長く遊べるようになっているし、そんなものを無視して永遠に建築とクラフトをしていても良い。ただ、永遠に遊ぶためには上記に述べたような問題点をいくつか乗り越えないといけないのは事実。
ぽこポケはまったく新しい究極のポケモン

探索と発見、収集、進化系など、ポケモンシリーズが持っていたけどなかなかゲームに落とし込めてなかったポテンシャルを、ぽこポケは一気に引き出して全く新しい1本のゲームに仕上げた。エンドコンテンツに課題はあるけどメインストーリーの範囲では間違いなく傑作と言える体験が用意されていて、ぽこポケは究極のポケモンだと思う。
- バグや理不尽仕様をおそれることなく、ポケモンを最高のJRPGとすることに挑戦した名作『スカーレット・バイオレット』
- ポケモンが安直なキャラゲーであることを否定せず受け止めて描いた怪作『Pokémon LEGENDS Z-A』
- 様々なゲーム要素を丁寧に再構築し、ポケモンの新しい魅力をたくさん引き出した究極のゲーム『ぽこポケ』
数年でこんな多様なゲームを作れるなら、ポケモンのゲームはしばらく安泰だと思った。ひとつだけだったら不安になる事もあるけど、これだけ色々やれるなら次も期待できる。 これだけやれるIPは無いと思う。