「手加減はしねえ、死にてぇ奴だけ掛かってこい」

ミアレシティと神室町の類似点

Pokémon LEGENDS Z-A(ポケモンZA) 発売前から「ミアレシティが舞台」と言われていて、ミアレシティ以外のマップがゲーム中に登場するのかどうかは不明だった。ポケモンといえばいくつもの町を巡っていく冒険が楽しいのであって、ポケモンZAをプレイするまでは「舞台ミアレシティだけで楽しいんか?」と疑問だった。

しかし、ポケモンZAは実際やってみると 「龍が如く」 だなと感じた。「龍が如く」は、シリーズにもよるけどだいたい神室町のような街だけを舞台としたアクションアドベンチャーゲーム。昨今のオープンワールドゲームに比べると街の中というコンパクトなマップでゲームの大半を過ごすことになるけど、そのぶんひとつの街の中に大量のアクティビティが詰め込まれているという構成。町の中が舞台だけど戦闘も普通に発生する。このあたりの特徴は「龍が如く」と「ポケモンZA」とで共通している。

冒険や発見を大切にしてきた「ポケモン」シリーズで、景色の代わり映えのしない都市空間内でのアドベンチャーというのは、相性が必ずしも良いとは言えないと思う。でも「龍が如く」が神室町という狭い空間の中に日本社会の魅力を詰め込んでいたのと同様に、ポケモンZAのミアレシティは「ポケモンと人間が暮らす街」というコンテンツを様々な方面から表現する場として十分に機能している。これはこれでアリだと思った。

また「ポケモンZA」はキャラクターも変な奴ばかり。特に、ポケモンZAは単体のキャラクターや単一の悪の組織ではなく、いくつかの団体とそれに所属するトレーナーが登場するのが特徴だけど、それも龍が如くで見たような要素が色々あった。 もちろん「サビ組」みたいな日本の裏社会をモデルにしている直喩的な要素は言うまでもなく。MSBCなんかも龍が如くっぽい。サビ組はやはり堅気に手を出さないのか「お前の家でポケモン大会するぞ」を脅し文句に留めていたのに対して、民間組織であるMSBCにはそういうの無いから普通に実行に移してしまって反社会勢力よりも迷惑な団体になっている点が、最近の極道組織が力を失った後の「龍が如く」とかっぽい。「ミアレを守る会」みたいな団体も龍が如くにあった気がする。

バトルがすべてを決める街

ポケモンZAの登場人物はみんな結構ややこしい事情を抱えているけど、ポケモンバトルで勝てばなぜか全部解決したことになる のも、喧嘩ですべてを解決する龍が如くの世界に近いものを感じた。特にポケモンZAの中盤までのメインストーリーの展開は、物語の本筋がまったく見えず、メガシンカのようなポケモンたちもただ機械的に消費されるのみで、ハッキリ言って面白みに欠ける。その代わり、トレーナーとのトラブルにばかりスポットが当たっていき、どんなトラブルでも必ずバトルで解決する展開になっていくので、これは本当に「喧嘩をポケモンバトルに置き換えただけで、龍が如くのサイドストーリーみたいな展開だ」と思った。ポケモンZAはメインストーリーだというのに、龍が如くで言うサイドストーリー程度の事しかしないのは物語全体としてまったく盛り上がらないものの、そのぶんミアレシティで暮らす個性的なトレーナーとポケモンにたくさんの尺を取って表現する事には成功している。

あとプリズムタワーもだいたいミレニアムタワーだよなー。町の中央にある象徴的な高層建築物であり、最終決戦の舞台であり、最後に爆発(?)するし。その前の「最終決戦のタワーに向かう前に敵がたくさん襲ってくる」というのも龍が如くっぽい。暴走メガシンカ軍団相手に「死にてぇ奴だけ掛かってこい」って言いそう。

これは何も関係無い、Geminiで生成したモンスターの大軍を相手に極道が啖呵を切るイラスト。

謎に包まれた主人公は「親殺し」か「どん底」なのか

公式設定ではないけど「龍が如く」との関連が感じられる要素として、「ポケモンZA」の主人公は驚くほどバックグラウンドが無いという点がある。この主人公は何を目的にミアレシティに来たのか、来る前は何をしていたのか、色々な背景情報が全く触れられず空白のまま、ミアレシティでの出来事に巻き込まれていく。旅行で来たと言っているけど宿も取っていないし、長期滞在にためらいもない。初めての冒険というわけでもなさそうで、ポケモンバトルが得意という設定を持ちながら、しかしミアレシティに来た時は1匹もポケモンを持っていない。

SNSによる考察で、この 何者なのか全く分からない主人公が「ムショ帰り」だと仮定すると全部説明がついてしまう と言われていて、初めて見たときは目から鱗だった。これもまた「龍が如く」で何度か使われる手法で、主人公が序盤で(別のキャラクターの罪を被る形で)服役することで、直近数十年のバックグラウンドが何もなくなる。そうすると刑期を終えた主人公が街や人の様子や社会情勢などに何も詳しくないという導入から始まり、ゲームを始めたばかりのプレイヤーと視点が合わさって没入感が得られる。

同じようにポケモンZAの主人公がムショ帰りでミアレシティに来たと仮定する。すると背景や事情を語りたがらず「旅行」とごまかして長期滞在するのも分かる。ミアレシティに来た目的なんて無いからトラブルに流されるままなのも分かる。大した荷物もなくポケモンも1匹も連れていないのも分かる。

さすがにポケモンZAの主人公は過去に犯罪を犯した人間では無さそう。しかしランクバトル戦などでたまに出る選択肢がやたら強気で血の気が多いセリフが見られたり、「ポケモンバトルが得意」だったり、サビ組の事務所に行くにもためらいの無い様子だったりと、結構やんちゃな素性が想像できるような点はいくつかあり、もしかしたら過去に何かあったのかもしれない。

そもそもポケモンZAのミアレシティは過去の出来事から人口流出・過疎化・治安悪化が進んでいるみたいなことが示唆されており、神室町のように「流れ者を受け入れられる金と欲望の渦巻く街」みたいな立ち位置にミアレシティがなっていてもおかしくはない。そうであれば、刑期を終えて行き場の無い主人公がミアレシティを訪れたというのも説明がつく。すべては考察にすぎないけど、色々と説得力がある。

良いところだけではないバトルシステム

興味深いのがバトルシステム。「ポケモンZA」は従来シリーズのコマンドバトルをやめてアクション要素を取り入れた。位置取りが重要なバトルシステムであり意欲的な点は色々ある。しかし結局ポケモンを直接操作できないので、位置取りが重要なのに思い通りに立ち位置を動かせないという問題点がある。

一方で「龍が如く」は本来アクションバトルだったけど、「龍が如く7」で一転してコマンドバトルRPGにシステムを変更したという経緯のシリーズになっている。その「龍が如く7」のコマンドバトルには、キャラクターを自力で操作できないので攻撃範囲などをコントロールできなくて遊びづらいという指摘がある。こんな欠点までポケモンZAと似ている。

ポケモンZAのバトルシステムはポケモンの立ち位置にまったく関与できないわけではなく位置取りに能動的に影響を与える方法がいくつかあるので、一概に問題点だけとは言えない。だけどアクションゲームからコマンドRPGに行った「龍が如く」と、コマンドRPGからアクションに行った「ポケモン」とで、似たような課題を抱えるのは興味深いと思った。

というわけで「ポケモンZA」はだいたい「龍が如く」だと思った。「龍が如く」の喧嘩をポケモンバトルに置き換えて、メインストーリーを無くしてプレミアムアドベンチャーだけにしたら、だいたい「ポケモンZA」だと思う。